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四角形の教室に三十余の机が碁盤の目状に並んでいる。その廊下側の列前から三つめが彼女の席だ。
顔のすぐ横の窓が開いていればそこからぼんやり廊下を眺めていたりなどする。
一週間ばかり前に席替えをした。それまでは彼女の椅子と机はベランダ側の日当たりの良い所にあったので、その場所で夏の間を過ごした木製の机は色褪せているようだった。
いつも昼休みになると「陽射しが暑い」と言って職員室の僕のとこへ来てそこで昼食を摂った。曇りの日でも何かしら理由をつけてはやってきて嬉しそうににこにこしていた。
机に肘をついて惚けている彼女の今の座席にはどんなに日が傾いても陽光は紙一重で届かない。席替えをした翌日僕の隣で弁当の包みを開きながらそう報告してきた彼女は上機嫌だった。
いわく窓際で日がな太陽光にさらされていると肌が焼けて痛むという。風が吹くのでカーテンを閉めるわけにも行かず嫌だった、と。
言われてみれば成る程このひと夏で制服の日焼け跡が春先と比べ目立つようになった気もする。
半袖から覗く腕を見た。柔らかな線の二の腕が伸びていた。
*
弟の知り合いだという女は部屋へ上がるなり不躾な目線を取り繕うそぶりもなく家具や調度品を見回している。
飲み物を用意してやりながら、あいつと会う約束でもしているのかと思い聞くと曖昧に否定した。
「お兄さんって、学校の先生をしているんでしょ?」
「ええ。」
「いいな、憧れちゃう。昔高校教師ってドラマがあったけど、あたし好きだったな。」
グラス一杯に氷を入れて麦茶を注いだのを女に手渡すと、ふた口ほど飲んで「おいしい」と微笑んだ。
「それなら〈先生〉と呼んでも構いませんよ。」
軽口を叩く調子で言ってから同じようにグラスを傾ける。女は僕の提案にクスクス笑った。
「えー、どうしよう? ワルい先生ね……。」
湿った冷たい唇をしならせて女が囁く。
「せんせ、寝室も見せて。」
*
ベッドにうつ伏せに横たわる女の腰に手のひらを当て剥き出しの背中を撫で上げていく。肩を覆い隠すように広がる薄茶色の髪もそのまま搔き上げると、徐々に白い頸が顕になる。
日に当たらないこの場所は手の甲や頬より青白く柔らかい。手を横へ滑らせて肩、二の腕と感触を確かめていく。
握りこむようにして何度か二の腕を摩っていると、僕の熱い手のひらと女の低い温度がそのうち混ざり合い温くなっていくようだった。
枕元に垂れる髪をふと見遣る。親指の腹で自分の唇を弄びながら首をかしげてみる。
彼女の髪はこれより暗い色合いだ。
席替えをする前は陽射しの下でほんのりと明るい茶髪のように見えていたが、今の席に座っているとまるで黒髪に見えるのだった。
——不思議な心地がした。
一度ベッドを抜け出してバスルームへ向かい、目に付いたシェーバーを手に再び戻る。
女のもとへ乗り上げるとスプリングの軋む音がして足場が弾む。
背中に跨りシーツの上を広がる髪を集め束ねて、持ってきたシェーバーでその髪を削ぎ落とし始めた。
じょり、じょり、自分の髭を剃る時よりくぐもった嫌な音がしている。
丁寧に仕上げるつもりなどなかったので乱雑に終え散乱した髪を払ってやる。これでいい。
上体を倒して女の背中に耳を当てる。両腕をシーツと女の腹との間に差し込んで臍のあたりで組み束の間微睡んだ。
次にふと目を開いた時にはベッドを降りて女の片足を掴んだ。力任せに引き寄せると女の体が床に叩きつけられる鈍い音が大袈裟に鳴り舌打ちをする。
面倒だと思う以外の感情が湧かない。それも仕事の一部であるかの如く単調に処理を済ませ、女は浴室の片隅に放ってその空間の中でシャワーを浴びた。
*
「せんせい、お早うございます!」
顔を上げると教壇の前で彼女が笑っていた。少し日に焼けた頬がふっくらと烏羽色の髪を持ち上げている。
「はい、お早うございます。」
目を細め意味もなく教卓の上を撫でてみる。
きっと、彼女の二の腕もひやりと冷たい。
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うっ………うわーーーっ!!!
失踪していました!!!!
「せんせいとわたし」のアップデートができない件でコメント送っていただいた方申し訳ありません…とほほ
配布ページからnarファイルをダウンロードして上書きインストールをお願いいたします!
せんせいといえば今年もノーリアクションでお誕生日スルーしてしまいました。
拍手でお祝いしてくださった方ありがとうございます!
あらためて後ほどお返事書いてまいります
お祝いってわけじゃないですが久々にSSでも。
以下大川せんせいが凶悪な殺人鬼じゃなくてよかったねユーザちゃん!というおはなし。追記からどうぞ。
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