少しずつまた更新再開してまいります!
リハビリも兼ねて「TeaParty」のセルフ二次創作SSを書きました。
ショタラロ・NOTユーザ(「君」)視点・動物虐待描写有り。
旦那も子供もいる女性がメロメロになっちゃうくらいカリスマオーラのあるジュリアンくん、が書きたかったのだけど…ど…(◞‸◟)
▼「TeaParty」SS
わたくしは、三人のこどもをもつ母親です。旦那は昼も夜も飲んだくれてろくに仕事をしない人でしたから、しょうがなく、わたしが働いてお金を稼ぐほかありませんでした。
下の子はまだ赤んぼうで、あと数年もすれば学校へ通わせなくてはなりませんし、真ん中の子は体がよわくて病気をしがちなので毎日薬代がかさみます。上の子が学校へ行く前に新聞配達のアルバイトをして、ほんのすこしばかりのお給料をもらってきてくれますけれども、ちっともたしにはなりません。
求人広告にお金持ちの使用人の募集記事を見つけたとき、わたくしは神が救いを与えてくださったのだと思いました。だって、いつも家でしていることの半分にも満たない仕事内容で——料理はおかかえのシェフが作りますし、洗濯物はどこかのクリーニング店が毎日引き受けに来ますから、使用人の仕事といえば掃除かお屋敷に住む方から命じられるちょっとした雑用くらいのものでした——高いお給金がいただけるんですから、わたしはなんどもなんども神様にありがとうございますとお礼を申し上げました。
さて、そのお屋敷には初老の紳士とそのおぼっちゃんがふたりきりで暮らしておいででした。うわさでは、奥様は感染性のご病気にかかって何年か前に亡くなられたということですが、そのことをたずねると誰もよく知らないと言って詳しく教えてはもらえませんでした。
お屋敷に仕える者はみんな、おぼっちゃんのことを“ジュリアンぼっちゃん”と呼んでおりました。
ぼっちゃんは、わたしの思うところには、わたしの真ん中のこどもとおなじくらいの年頃に見えましたが、その子とジュリアンぼっちゃんはまったくもって異なるいきもののように感じられました。
ぼっちゃんを初めてこの目にした時、わたくしはその少年のうつくしさに眩暈をおぼえたほどでした。白くて傷やそばかすのない肌は、ひざしをあびるとつややかに輝いて、まるでその肌自体が光をはなっているようでありました。短い髪の毛は風がそよぐと軽やかに揺れて、香水か洗髪料の甘い匂いが立ちました。指先は少女のように小さくほっそりとして、その指に触れられると、人も動物も、草木さえも、ふしぎなエクスタシーを感じているように思えました。それからぼっちゃんの目は、この世のすべてのうつくしいものをかき集めてきてガラス玉に閉じ込めたかのようでした。あの目を甘く細められて、耳に心地よい少年の高い声で命令をされると、わたしはもうジュリアンぼっちゃんのためになんでもしてさしあげたくなってしまうのでした。そしてそれは、旦那様以外のお屋敷中の誰もが感じることのようでした。
「おまえのホットチョコレートは、この屋敷の誰が作るホットチョコレートよりいちばん美味しい。」
ある秋の冷える晩、おなかが冷たくて眠れないから温かい飲みものを作ってほしいとねだられて、時々ぜいたくをしてこどもたちに飲ませてあげるホットチョコレートを作りましたら、ジュリアンぼっちゃんがお言いになりました。
わたしはうれしくてうれしくて、初めて恋をする処女のように頬を赤らめずにはおられませんでした。
「チリペッパーをくわえたからでしょうか。」
「チリペッパー?」
「寒いとおっしゃったので、辛味であっためてさしあげようと……。」
「そうか。これはとても美味しい、ぼくの好きなあじだよ。」
そう言ってぼっちゃんは、いつもよりほんのすこし青い唇を、真っ赤な舌でぺろりと舐めました。
ああ! そうしてわたくしにそっと笑んだジュリアンぼっちゃんの、なんとかわいらしいことか!
ぼっちゃんはあまり笑わないお人でした。飲みもののたった一杯でぼっちゃんの笑ったお顔が見られるなら、毎日でも作ってさしあげたいと思いました。
庭園前のテラスで落ち葉を集めていると、目の前で鮮やかな色の小鳥がお庭の枯れ木に降り立ちました。ぴっぴと鳴きながらわたしを見下ろして、時折首をかしげたりなんかしております。
「まあ、かわい。」
パンくずをやったら食べるかしら。今朝、ラスクを作った時のあまりがまだ使用人用の厨房に捨てずにとってあったので、わたくしはお屋敷に戻りまして、エプロンの裾でそれをくるんで再びテラスに飛び出しました。
枯れ木の前に、ジュリアンぼっちゃんが立っておりました。ぴんと伸びた小さな背中と、白いうなじが冷たい風に晒されて、とてもお寒そうに見えます。
わたくしは一度お声をかけてから、ジュリアンぼっちゃんのそばへ寄ってそっとお顔を覗き込みました。
ぼっちゃんはあの小鳥を両手で包んで、それを優しい眼差しで見下ろしておりました。鳥は、ぼっちゃんの手が自分の巣であるかのように大人しくそこへおさまっておりました。
「見てごらん、おまえ、かわいいだろう。」
「はい。」
わたしは崇高な絵画でも見ているような気分でした。ジュリアンぼっちゃんと小鳥の視線がそうっと合わさって、あるいは神と天使の姿とはこういうものなのかもしれないと思いました。
ぼっちゃんの頬に、寒さからかぽっと赤みがさして、くちびるの両端がゆるやかに持ち上げられました。
「おまえ、ぼくはね、こういう愛おしいものを見ると、どうしてだかとっても、酷いことをしたくてたまらない。」
うたうようにそう言って、ぼっちゃんは優しい表情のまま、すこしずつすこしずつ両手を握ってゆきます。そうすると、手の中の小鳥が苦しげにくちばしを開いてもがきはじめました。そしてしばらくすると、小鳥の顔が一瞬プクッと不自然に膨らんで、ジュリアンぼっちゃんの手の中でとうとう潰れてしまいました。
小鳥が死ぬと、ぼっちゃんは血だらけの両手をそっと開いて、死骸を見つめて、はあ、と悩ましげなため息を吐かれました。それから、今まで大事そうに持っていたそれを、まるでゴミでも捨てるようにパッと手をはなして地面に落としてしまいました。
ジュリアンぼっちゃんがわたくしを振り返ると、濃い鉄のにおいがしました。
ぼっちゃんは、徐に人差し指を自身のくちびるへ押し当てました。
「ぼくとおまえだけの秘密だよ。」
ぼっちゃんはうつくしく笑いました。
わたしは彼とおんなじように、人差し指を静かに口の前へ立てました。もうその指も唇も、みんなぼっちゃんのものでした。